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Junk Mind D.N.A.

ことばがかいてあります。

遠く

遠く遠く
遠くまで来てしまったと
後ろを振り返り思う瞬間に

湧き上がるたくさんの感情と言葉を
全て飲み込んで

前を
遠くを
見る


世の中の流れがあまりにも早くて
やりたいことが出来ないまま
気が付けば、こんなところにいて

今居る場所が、意外と居心地が良かったりして

それは多分、自分自身の努力の結果ではなく
ただ運が良かっただけなのかもしれないけれど
昔のように、余りある熱量を外にぶつけていた頃よりは
今の自分は、きっと温かい

言葉を使うときに
言葉をちゃんと選ぶようになったのは
いつからだっただろう?

誰かのために、と考えたとき
その「誰か」の中に、きっと含まれている
自分自身がいて
状況を制御出来るほど優秀じゃないけれど
自分自身も笑えるような
そんな言葉を考えて、選べれば
多分きっと、誰かのためになる

必要のないものが多過ぎるという言葉の
その正しい意味を
今になってやっと理解出来た

誰かを傷つける言葉は要らないし
誰かと争う言葉も要らないし
誰かを悲しませる言葉も要らないし
誰かを失望させる言葉も要らない

ただ、自分自身を試す言葉だけがあれば良い

強い風が止んだ朝に
不意に顔を上げたときに
瞳に映った景色の
冬の寒さに震える空の
青さと、透明感

時間の流れが早いから
心の奥底から湧き出る熱量は
失われていないと
そのことに気付いたのは
多分、ほんの少し大人になれたから

失ったものはあったかもしれない
得られなかったものは多かった
でもきっと、それだけじゃないし
そんなことはどうだって良い

そんなことは、必要のない感情

僕らはきっといつでも遠くを目指す
今居る場所より、もっと遠くを
必要なのだと、そう思えるものを
ひとつずつ、大切に拾い上げながら
ゆっくりと歩きながら
矢のように早く流れる時間の中で


---------------------------------

乾いた空気に顔をしかめながら、僕は部屋の扉を閉じた。後ろ手に。
うんざりした手付きで明かりを灯し、荷物を降ろす。
今朝出た時と、同じ眺めの部屋。
思わず、ぐるりと見回してしまう。何かを探すように。
それは記憶の中にある光景なのかもしれない。
記憶の中にしかない、過ぎ去った光景なのかも。
溜め息を飲み込んで、ネクタイを緩める。
夢遊病のように動く手付きとは裏腹に、記憶は過去に遡る。

彼女は、僕にとって何だったのだろう?
友人だったかもしれない。腐れ縁の。
気の合わない知人だったかもしれない。腐れ縁の。
ただ少なくとも恋人ではなかったはずだ。
彼女の名前は、雫。
儚げな響きとは相容れない性格の女性だった。

「鬱陶しいのよね。アンタってさ」
忌々しげに顔を歪め、雫は僕をそう責めた。
ソファーの無い部屋。あるのは、ガラステーブルがひとつ。
その上には、既に空になったビールの缶が三つ。
ひしゃげたその空き缶を眺めながら、僕は抗弁する。
「主観の相違だろ、それは」
雫は舌打ちをして、手にした四本目を煽る。
僕は空き缶を拾い上げ、袋に放り込んだ。
耳障りな音に混じって、少し湿った音。完全に飲み切っていなかったらしい。
全く、忌々しい。
「アンタの部屋に誰がいて、何をしてようが、別に迷惑じゃないでしょ?」
迷惑じゃないでしょ?
一体、どういう思考回路をしているのだろうか。
問い詰めたいことは幾らでもあった。
どうしてこの部屋に勝手に入って来たのか。入れたのか。
冷蔵庫の中のビールを勝手に飲んでいるのか。空き缶を片付けないのか。
ジーンズを履いているとはいえ、胡坐をかいているのか(正直、これが一番許せない)。
「機嫌が悪いときは僕の部屋に来ない約束だったんじゃないのか?」
雫の顔を見ずに、僕はベッドに向かった。狭い部屋だ。他に居場所もない。
返答はなかった。ただ、アルミ缶を握り潰す不快な音が聞こえた。
「鬱陶しい」

今になって考えることがある。
雫は何を鬱陶しいと感じていたのだろうか、と。
その「何を」の中には、僕自身が含まれているのは間違いない。
ただ、僕個人だけを指しての言葉ではなかったはずだ。
そう思いたい。

雫は、花嫁になった。なっていた。
それを知ったのは今日で、結婚式は二ヶ月も前のことだった。
鬱陶しいと感じない何かに、雫は出遭えたのかもしれない。
鬱陶しくない誰かと出逢えたのかも。
俯いていた自分に気付き、前髪と共に顔を上げた。
洗面所に向かう。
鏡に映ったのは、自分自身の酷い顔。
雫との縁は、もう切れた。切れたはずだ。
それなら、もうどうでも良いじゃないか。
自分に言い聞かせるようにして、痺れるほど冷たい水で顔を洗った。

(僕らの青年期「雫」追記 練習中)
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  1. 2013/02/01(金) 22:08:12|
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